2011年3月4日金曜日

主無しとて春な忘れそ


梅?でしょうかね?というかこれはパリのアパートの中庭に咲いてる花なので日本の梅とはまた種類の違う「梅の仲間」の何か、なのかも知れませんが。ま、でもなんとなく梅っぽく見えます。そんな季節なんですね。

東風吹かば 匂い起こせよ梅の花 主無しとて 春な忘れそ

梅の花というと思い出すのがこの歌。都の屋敷に残していく梅を愛でて、左遷される身を悲しんで…というと寂しげですけど、「今は左遷されて田舎にトバされるけど、見てろ、今に都に返り咲いてやるからな!」という意味に取れなくも無いと思うんですがどうでしょう。もしそうなら結構生臭い歌ですね。なんて言ったら怒られちゃうでしょうか。ゴメンナサイ。飛梅伝説は美しいですが、一夜にして飛んで行く、なんて言うと雨月物語の「菊花の約」をどうしても連想してしまうのはおっさんの性格が暗いからですこれまたゴメンナサイ。

菅公はこの歌の中で「東風吹かば」という言葉で「春が来たら」という意味を表してますね。ここが日本とヨーロッパの違う所。日本の春風は東風です。ヨーロッパの春風は西風。「シャーロック・ホームズの最後の挨拶」では、ドイルは戦争が始まるという意味で「それでもやっぱり東風は吹くのさ」という台詞をホームズに言わせてます。西風の反対、東風が吹く厳しい時代がやってくるという意味ですね。

理科の授業でやりましたね。春が近付き、日差しが暖かくなってくると、陸地のほうが海より温まり易いので、陸地に上昇気流が発生し、海から陸へと風が吹く訳です。東に太平洋がある日本では東から。西に大西洋があるヨーロッパでは西から。
そんな訳でヨーロッパの神話の中には、冬の間枯れていた草木が、春の、西風の到来と共にまた芽吹き、生い茂っていく様子を表したものが色々ありますね。代表的なのがゼフュロスとクロリスのお話でしょうかね。ボッティチェルリの「春」の画面向かって右側の三人によって表現されているお話。しかし、ふと見かけた女の子を力ずくでモノにして、その乱暴を償うために正式に結婚するというのも、結構不思議な話ではありますね。まぁ被害者(?)のクロリスさんのほうもそれで納得して結婚して、花の女神として永遠の春を楽しんでいる訳ですから良いんですけどね。このクロリスさんがゼフュロス(西風の神、春風の神であり、この春風はまた愛の風でもある訳ですね。春は色々な生物にとって愛の季節でもあります。)の「愛の風」に触れて変身した姿が花の女神フローラで、ボッティチェルリの「春」の右から三人目の女神です。

春が来て緑が蘇り、花が咲き乱れる様子と、「愛」を知る事で少女から大人の女へ成長する事を同時に表現した、何とも味のある神話ですね。

アポロンとダフネとか、パンとシュリンクスの物語も同じ系譜に属すんでしょうが、裏に何か別の意味が隠されているかどうかは別として、少なくとも物語上はダフネは月桂樹に、シュリンクスは葦に姿を変えてしまい、アポロンもパンも思いは遂げられなかった訳で、色々頑張って女の子にアプローチして、もう少しで手が届く、と思ったけどやっぱりダメだった、なんていうのは今も昔も変わらないんでしょうか。

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